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【結月インタビュー】着付けに補正はいらない!

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過去記事の抜粋です。どうぞ参考にしてください!

着付けに補正はいらない!

小西:お着物のお話を伺うと、結月さんは着付けを教えていらっしゃいますが、補正をしないんですよね?

結月:そう。一切、補正はしません。タオル一枚も使わない。

小西:着物って補正をするものだと思っていました。

結月:今はどこの着付け教室でも補正をするし、美容院や結婚式場で着付けてもらってもタオルを何枚か持って来てくださいって言われますよね。

小西:私も2年前、友人の結婚式のために着付けてもらったとき、バスタオルを巻かれました。

結月:苦しかったでしょう?

小西:はい! それはもう苦しくて、披露宴で出た料理もほとんど食べられなかったんです!

結月:それもよく耳にする話です。今の着付けは紐をギュウギュウに締めますからね。殺人的ですよ。崩れちゃ駄目だからなんて言って、きつく締めるんです。おまけにタオルを入れるものだから、動きにくいですしね。

小西:着物はあのキツさを我慢するものだと思っていました。

結月:着物っていうのは我慢して着るものじゃないですよ。そんなことをしたら、そもそも体がもたないので。わたしはうちの生徒が結婚式に出るときに着付けてあげるんですが、いつも言うんですよ。お腹いっぱい食べられるように着付けてあげるからって。だって、他人の結婚式にご祝儀で金まで払って着物も着て、それで着物が苦しくて、出された料理もろくに食べられなかったなんて馬鹿らしいじゃないですか。でも、わたしの着付けだと大丈夫。結婚式が終わってから生徒に訊くんですよ。たくさん食べた?って。そしたら、出されたもの、全部食べました!って。

小西:ご祝儀を払って食事もできないって、確かに馬鹿らしいかも!? ちょっと新鮮に聞こえました。怒られそうだけど。

結月:このご時世、結婚式にご祝儀を持って行っても数年後に離婚するひと多いじゃないですか。どうせ離婚するんだから料理くらいたらふく食べないと割に合わないですよ。

小西:キャハハハ! って、笑っちゃいけないけど、そうなんです。実は先月、友人のひとりが離婚しました。私はちゃんと結婚式に行ったんですよ!

結月:まあ、半数近くは離婚してますからね、統計では。それでしばらくしてまた再婚して、懲りもせずまた結婚式をやるからって招待状を出すひともいるんですから。

小西:ああぁ、わかります! それ、私もありました。再婚の結婚式で、また同じテーブルに同じ同級生が座ってるんです… あっ、でもこれ以上は黙っときます。バレるから。

結月:そう言えば、そんな話、うちの生徒からも聞いたことがあります。ともかく、結婚なんてその程度の扱いっていう時代ですから。そんなもんですよ。

小西:そのお話、もっと聞きたくなってしまったんですが、いきなり着物から話が逸れるのもなので、戻しましょう。着付けに補正はいらないっていうお話でした。

結月:はい。そもそも「補正」っていう言葉がおかしいですよ。正しく補うでしょう? 今の着付けって、全然正しく補っているように見えません、だって、タオルを入れまくって、まるで着ぐるみみたいな着物姿ばかりじゃないですか? あれ、全然美しくないです。体は妙に大きくなって、まるでアメフトの選手ですよ。

小西:そうなんですよ! 私もタオルを入れられたら、太ったように見えて、これは自分じゃない!って思ったことがあります。

結月:わたしは補正は体への冒涜だと思っているんですよ。誰でも寸胴にしなければならないっていう考え、まるで盲目的なファシズムです。ひとにはそれぞれ自分の体があって、個性があるのだから、それをなくして誰でも同じ寸胴にしようというのはおかしい。そのひとの持つ魅力を着物によって出すべきだと思うんですよ。だから、わたしはそのひとの体型から来る魅力を引き出す着付けをします。そもそも寸胴という形状が全然美しくない。

小西:誰もが同じっていうのは、よく考えたら気味の悪い話ですよね。

結月:身長だけでなく、胸の大きさ、さらには肌の色、顔の形、そうしたものは皆、個性があって、そこからそのひとの雰囲気というものが出ています。わたしの着付けはまずそれを捉えて、タオルなんか使わずに、そのひとの体に着物を吸いつかせるようにして着付けるんです。

小西:よく胸が大きいひとは和装ブラで平らにしてっていうことも聞きます。

結月:それもおかしな話なんですよ。着物は胸を潰さなきゃいけないなんて。胸はあっていいんです。この絵を見てください。

小西:これ、上村松園ですね。

結月:この美人画の帯の上を見てもらえますか。

小西:あっ! 胸が帯にたっぷりと! このモデルは胸が大きかったんですね。

結月:この絵を見ておかしいと思いますか? わたしはとても自然で美しいと思う。

小西:確かにそうです。自然です。全然おかしくありません。

結月:もしこの絵のモデルが和装ブラなんてしていたら、この絵は傑作にはなりませんよ。そもそも明治時代に和装ブラなんてありませんが。

小西:そうですよね。

結月:和装ブラって、おそらくここ数十年でどこかの和装小物業者が作ったものだと思うんですよ。そもそも「和装ブラ」っていう名前が笑ってしまいますよ。わさびマヨかよっ!って。

小西:キャハハハ! すいません、また笑ってしました。言われてみれば、ネーミングがわさびマヨです。

結月:ブラジャーって西洋で生まれたもので、それが和装って、根本から笑えますよ。それをみんな、真面目にやらなきゃと思ってる。着物というものは日本のもので、日本人がずっと着ていたものですよね。そこに西洋の下着が変な形でアレンジされて、和装になってる。おそらく和装しかなかった江戸時代のひとが見たら、奇天烈なものに見えるでしょうね。

小西:これは一体、なんじゃろう?みたいな。

結月:わたしは日本の服飾文化の歴史をずっと遡って勉強したんですが、例えば江戸時代の浮世絵を見ても、着物は寸胴には着ていないし、とても柔らないものなんですよ。今みたいにタオルをパンパンに入れてアメフトの選手さながらのようなガチガチなものじゃない。もちろん時代によって変移するものとはいえ、本来の着物の魅力をちゃんと生かさないとってわたしは思うんですよね。それが生かされていないどころか、着て苦しいっていうのでは、着物は苦しいから着たくないって思うのは当たり前ですよ。でも、本当は着物は苦しさを我慢して着るものではありません。そして何よりも美しさです。女性としての。

小西:女性としての美しさ?

結月:補正タオルを詰めて、体が着ぐるみみたいな寸胴になって、ひどいのは胸の膨らみよりもお腹の帯のところが詰めたタオルのせいで出っ張っている着付けがあります。よくモデルや芸能人の着付けに見られますが。そういうものをわたしはまったく美しいと思わないんですよ。あれが美しいと小西さんは説明できますか?

小西:言われてみれば、よくわかりません。頭から補正はしなくちゃって思い込んでいたので。

結月:それですよ。みんな、宗教みたいに疑いもせずに信じ込んじゃっているんです。果たしてそれが美しいか?って考えてみればいいんです。すると、体型がタオルで図太くなったものなんて、女性の肉体美からしても不自然で美しくないですよ。よく補正グッズの通販サイトなんかにビフォアフターの写真があって、明らかに補正をしてないビフォのほうのモデルが猫背になっていて、わざとアフターを強調するようになっている。おいおい、そこじゃないでしょ!って思うんですが、まあ、補正をしてくれないと補正グッズの売り上げも立たないし、着付け教室だって儲からないんですよ。

小西:私の友達がどこかの着付け教室に行って、最初に補正用品を買わされたらしいんですが、結構な値段でした。

結月:そうでしょう? そうなるんですよ。これがないと着物は着られないんで、とか言ってね。まあ、それも商売のやり方のひとつではあるんでしょうが、わたしは女性が着物で美しくなるのを見たいので、たとえ儲かったとしても補正グッズ商法は自分にはできないやり方だなって思います。

着物を吸いつかせる

小西:ところで、補正をしないと着崩れると聞いたことがありますが、どうなんでしょう?

結月:それも嘘です。わたしの着付けは補正しませんが、まったく崩れません。着るひとの体に着物を吸いつかせるようにして着付けるので、自然な動きができるからでしょう。それからきつく締めませんので、そのぶん遊びがあるからそのほうが崩れないんです。むしろタオルや綿をたくさん入れてしまったほうが崩れるときは大きく崩れます。だって、肉体と着物にある遊びを全部埋め尽くしてしまっているようなものなので。だから鎖骨のところに詰めた綿が衿元からはみ出て来るなんて馬鹿げた話は結構あるんです。本末転倒ですよ、それじゃ。

小西:着物を吸いつかせるっていうのはキーワードのような気がしました。

結月:そうです。吸い付かせるように着る、着せるがテクニックです。重要なのは肉体感覚ですから。それを損なわないように着付けるのがいいんです。そう考えると、一切、補正グッズを使わないわたしの着付けのほうが技術的には難しいかもしれませんね。タオルで体のラインを消して、着物を紐で縛り付けとけばいいというものでないので。

小西:センスが必要ってことですか?

結月:そうですね。着せるひとの体型と魅力をセンス、つまり感性で感じ取って感性に従って着付けていくという感じです。いわば、目に見えない技術でしょうか。

小西:では、結月式で着物を着られるようになるのは難しいのでしょうか。

結月:全然そんなことないです。だって、わたしがそのひとに合ったポイントで教えますし、補正もしないので、プロセス自体はすごく少ないので。いろんなひとに着付けをするという仕事にするなら難しいかもしれません。なぜなら、同一の体型のひとはいない中で、そのひとに合った着付けを瞬間的に感じなければならないので。でも自分で着るのなら、自分のパターンだけを知っておけばいいので、簡単ですよ。

小西:では、結月さんは着付けのオーダーも受けているんですね?

結月:いえ、着付けをするのは、基本的には生徒さんたちだけです。よく着付けをお願いできますかって電話やメールをいただくのですが…

小西:それはどうしてです?

結月:まだ世の中が補正はやるべきものだっていう思い込みが強いからです。今日述べたような考え方を理解してくれているひとはいいのですが、知らなくてタオルを何枚も持って来られたのに、補正はしませんなんて言うと、補正はしなくちゃと思っているひとには説明するのもややこしいので。でも、うちの生徒はそれを知った仲なのでスムーズに行きます。

小西:先入観ってありますものね。

結月:あと、わたしはちゃんと根っこのある着物美人を作りたいんですよ。

小西:根っこのある着物美人?

結月:つまり、何かの行事で着物を着なくちゃいけないから、ピンポイントで着付けをしてもらうっていうのではなく、いつでもどこでもサッと着物を着こなせて、自分というものをちゃんと着物で表現できる女性です。そういう素敵な女性を育てたいんですよ。

小西:だから、着付けだけというのはおやりにならないんですね。

結月:もし行事で着なくちゃいけないという機会があるなら、わたしの着付けレッスンを受けてみてほしいです。そしたら、まだ自分で着付けられる状態でないときは、ちゃんとわたしが着付けて差し上げますから。不思議と着付けって信頼関係がないとうまくいかないものですしね。

小西:着付けに信頼関係ですか!? 初めて聞きました、そんなの!

結月:これはわたしだけかもしれませんけどね。例えば、結美堂では体験で無料着付けをしているんです。そういうとき、わたしみたいな変質者(笑)がやると、ああ、このひと、わたしのこと、疑ってるなって感じるときがあるんです。そうすると体から反発するようなオーラみたいなものが出て、着物がうまく吸い付きません。さっき言ったようにわたしの着付けは体に吸い付かせるがポイントですから、素直さっていうか、受け入れてもらえる心がないと、どうもうまくいかないんですよ。

小西:何となくわかります。それと同じようなことを以前取材したメーキャップアーティストの方も言っていました。

結月:メイクもきっとそうでしょうね。ですから、何度かレッスンをした間柄だととても着付けやすいし、わたしもそのひとのことを理解しているのでうまくいくんです。なので、わたしのことを信頼してくれて、わたしもそのひとのことをきれいにしたいっていう愛情みたいなものが行き来し合う関係がいいんです。無理に知らないひとをいきなり着付けて、うなくいかないなんて、やっぱりお互い嫌じゃないですか。

小西:なるほど。着付けって奥深いものなんですね。

結月:やっぱり人間ですからね。マネキンとは違います。心がありますから。

小西:では、今日はこのへんで。また次回もお着物のことを伺いたいと思います。

<インタビュー・文 小西侑紀子>

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